オットー高岡の我流天晴

フリーデザイナーオットー高岡のページ。我流もいつかあっぱれに。
わたしは誠実だろうか
そう問い続けること
希望をもって
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ふたねこ
 むかしと云うにはいまどきのことだが
あるところに、K女というねこ好きの女性がいた

あたしはK女とは古いつきあいなのだが、
いったい、何の因果というか業というか
K女は、栄養失調で歯が抜けて肺炎のねことか
十六歳のねことか、もうボランティアとしか思えないような
いわく付きのねこを拾ってくるのを特技としていた。
もっとも、彼女の夫も、いわく言い難い人格の男であったので
もともと、いわく付きに縁の深い人なのかもしれない。

K女の立派なことには、それらのねこたちを
正しく病院に通わせ(もちろん車に乗せて連れて行くのだが)
かいがいしく世話をし、それぞれに寿命をまっとうさせた。
もっとも十六歳の方は、初手から高齢ネコだったが。

そんなK女だから、夫を失った今でも2匹のねこを飼っている
これらは、とくに、いわく付きではなかったのだが、
おとなしい三毛とちょっと性格のきつい白ねこだった。

どうやら、世間の野良ねこというのは、ねこ好きを見分ける本能があるのか
K女の家の前にはいつのまにか数匹のねこがたむろするようになっていた。
いま飼われている白ねこも、勝手に上がり込んで住み着いたらしい。
これも、いわくといえばいわくである。

そんなある日。K女が家へ帰ってくると、玄関前に置いてあった
クーラーボックスの上に、ふたつの鳥の唐揚げが転がっていた。
誰が置いたかと見ると、それは唐揚げではなく、
生まれたてのふたつのねこだった。

先日来、玄関前にうろついていたねこの中におなかの大きいのがいたことを、
K女が思い出したとき、身軽になったそのねこがK女の前を
軽くお辞儀をして通り過ぎていった
かどうか、あたしはしらないが、こねこの力で上ることかなわぬ
クーラーボックスの上に、ふたねこがいるのを見て、
これは、よろしく頼むという親ねこからのメッセージだと受け取ったK女は
2匹のねこを家に連れて帰った。

ふたねこは、雄と雌で、まだ、手のひらに載るくらいの小ささだった。
親ねこのせわが不十分だったらしく、2匹とも目やにがかたまって
どうやら化膿している。
K女はすぐに、ふたねこを病院に連れて行った。

残念なことに、雄の方が、手遅れのようで、右目は摘出。もう片方の目も
おそらく見えないだろうし、ゆくゆくは、摘出せねばならないかもしれない。
雌の方はなんとか、持ち直すだろうということだった。

「ねこいらん?」
K女から、あたしに打診があったのは6月のころだった。

「唐揚げちゃんてゆうねん」
K女は楽しそうにあたしにいった。
「かわいいねんで」
あたしは、娘が前々からねこを飼いたがっていたから
つい「いいねえ、娘にきいてみるわ」と答えた。
すると、「でもな…」とK女が、ふたねこの事情を語った。

あたしは、あたた、またいわく付きか、と思いながら
「まあ娘に聞いてみるわ、でも、2匹いっぺんはなあ、うちもねこ飼うのは初めてやし。」
すると、K女は、もう一人、一匹ならねこを引き取ってもいいという人がいること、
目が見えなくてもねこは活動するのにそれほど目をたよっていないから
家の中で飼う分にはなんら問題はないこと、さらに2匹は仲がいいから離したくないこと、
などを語る。
しかし、いっぺんに2匹のねこを飼うというのはなあとあたしは判断に困る。

「ほんとは、家で飼いたいねんけどな、」とK女。
今、飼っている白ねこが実はものすごい焼き餅焼きで、
K女が他のねこをかわいがっていると、そのねこに激しく暴力を振るう。
ふたねこの前に拾った猫がその所為で神経症になってしまい、仕方なく
飼うのを断念した経緯がある。
その神経症になったねこは、鬱病になったとさわいでいるあたしの母親が引き取り、
いまでは、ずいぶん大きくなっている。

あたしもそれで、白ねこについてはよく知っていたのでK女がふたねこを
飼いたくても飼えない事情はよく分かる。
しかし、いっぺんに2匹も飼えるのかどうか自身はない。
かといって、目の見えるねこだけ貰って、目の見えないのは誰かにあげて
なんて云うのも、いや、本音ではそういいたい気持ちも山々だが
動物を飼おうとする性根にしては、あまりにも手前勝手が過ぎる気がする。
さりとて、目の見えないねこだけを進んで貰おうというのも、せっかく
はじめてねこを飼う娘がかわいそうな気もする。

「2匹、仲ええから離したくないねん」
K女はここのところをゆずらない。あたしは、しかしいっぺんに2匹とは…
簡単に決めるにはハードルが高い。あげくのはてにK女は
「いっそ、白ねこを貰ってくれるとか?」
などと言い出す。
「むり」
ここは、即座に否定。そんな暴君みたいな、しかも子猫でなく
そだっちまったデブねこなんぞ、ひきとってなるものか。
しかし、あたしは、どうにも判断が出来ず、逃げた。
「娘にきめさすわ。あたしから事情を説明して連絡させる」
ということになった。

娘は、ごく簡単に、2匹まとめて引き取ることに決めた。

K女は、「ほんとに、ええのん?」とあたしにいう。
あたしが、2匹いっぺんは無理やといっていたのに気をつかってるようだ。
しかし、彼女の言葉が、ふたねこを手放すさみしさを滲ませていたことを
あたしは、気づかないふりをした。

かくて、現在、ふたねこは我が家に飼われることとなり、もう2週間ほどが過ぎた。
K女は、雄ねこの手術費用などをすべて負担してくれ、小型のケージから
えさやねこ砂までそろえてもってきてくれた。

娘が、女の子には茶色いからチャコと名付けるという
あたしは「兄弟で女の子がチャコちゃんなら男の子はケンちゃんだろう」
なんて、時代錯誤なことを云う。
だが、娘は結局、目の摘出手術をしたばっかりで右目を腫らしている弱々しい雄は、
健康になるようにと願いをこめて、健ちゃんと名付けた。

「もうちょっと大きいケージが欲しい」と娘が言うので
「金がない」といったら、「バイト料が入ったらかえすから」
というので、娘に二万円也を貸し与えると
ねこが上る用のバルコニーの付いた、大型冷蔵庫ほどの金網を買ってきた。

我が家の台所は、誰かが腰掛けていると通れない状態になってしまったが、
夜、家へ帰って、やわらかいかてん、をかじりながら焼酎をちびちびすすり、
ケージの中のふたねこを観察するのが、あたしの楽しみになった。

目の腫れのおさまった健ちゃんは、K女の云うごとく
見えているのかと思うくらい普通に走り回っている。
ケージから出していると、家中を2匹で取っ組み合いながら
猛スピードで駆け回っている。

ケージの中では、目もみえないくせに、バルコニーによじのぼり、あまつさえ
チャコの気配と首に付けた鈴の音をたよりに、上の段から下の段へ飛び降りることも
出来るようになった。

2匹、仲ええから離したくないねんというK女のこだわりだが
おそらく、健は、そばにチャコがいることで、単独の目の見えないねこよりも
しっかりしたねこにそだってくれるんじゃないか。
ふたねこを引き離すことは、たぶん出来はしなかったのだろう。

ほぼ実話、オットーでした



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